シモキタの街を「実験…

にぎわい探訪

シモキタの街を「実験」で変えていく場所、 「ミカン下北」

近年、「シモキタが変わった」といわれる。
新しいシモキタの風景を形作る一翼を担う「ミカン下北」の施設を開発・運営している京王電鉄の角田匡平氏に話を聞いた。
すこしアジアのにおいがする、おいしそうな飲食店が立ち並ぶミカン下北。
コワーキングスペースを備え、古着や雑貨の店、本屋もはいっており、シモキタを凝縮したような場所だ。
この施設を説明するとき、角田氏はこう言う。

「ミカン下北は、商業施設ではありません」

ミカン下北とは、どんな場所なのか。
そこには、この施設ができた背景が深く関わっていた。

街のいろんな人が関わってくれる仕組み作りで、「プレーヤー」を増やす

リモートワークの普及や、人口減少という背景のもと、京王電鉄は、駅を中心としたビジネスモデルから飛躍して、今までの稼ぎ方とは異なる収益構造が必要であると考えた。

「街の魅力をアップすることと京王電鉄の長期的な視点での利益を接続することが必要であると考えました。
いくら街を魅力的にすると言っても、きちんと収益を生まない仕組みは長続きしない。それに特に下北沢では、京王電鉄がいきなり『街を魅力的にする』と言っても、なかなか響かない。
共感してくれる人たちを増やして、街のいろんな人が関わってくれ、自発的に街を面白くするコトを生み出していく仕組み作りが必要であると考えました。」

このプレーヤー(街で事業展開する企業や個人)を集めるための機能の一つが、コワーキングスペースやシェアオフィスなどで構成されるワークプレイス「SYCL by KEIO」だ。
このSYCL by KEIOは、「誰かのやってみたいが街とつながる」をコンセプトとし、スタートアップの企業や個人・フリーランスを中心に、情熱を持った様々な企業や個人が集まっている。
ワークプレイスの運営に留まらず、街を面白くするコトを生み出していくために、参加者たちがいろんな意見を忌憚なく話し合う「下北妄想会議」、それをプロジェクト化し実行に移すための「studio YET」など、様々な仕組みが考えられている。

「これらの仕組みは、ダイレクトにビジネスにつながるものではなく、アウトプットより過程を重視しています。街のニーズを吸い上げて情報を持ち、様々な人とのつながりが生まれる。そのことこそに意味があると考えています。
いろいろ仕組みは考えているけれども、別にきっかけは何でもいいんです。自発的に面白いことが生まれるのであれば、究極的にはこの仕組みはなくなっても良い。」

「実験」から生まれるもの

ミカン下北では「実験」という概念をとても大切にしている。
ロゴマークも、実験的なものだ。
ミカン下北のクリエイティブを担った株式会社コネルのオフィスに、ミカンの「ミ」を様々なパターンで書いて、その中から選んだものをスキャンしてデータ化し、この施設のロゴとした。
「いろんなチャレンジをして、リセットして0にするのではなくみんなで上書きをしていこう。いろんな人にミカン下北の仲間になってほしい。そんな想いも込めて、誰でも簡単に書けるロゴを採用しました。」
下北沢の様々な人にフォーカスをあてたメディア「東京都実験区下北沢」では、最後に必ず聞く質問があるそうだ。

『どういう実験をしてみたいですか?』

この質問から生まれたのが、実験型お笑いライブフェス「下北www.2023」である。
“普段閉じられた空間で実施されているお笑いライブが下北沢の街に飛び出したらどうなるか実験したい!”という思いを、ミカン下北で実証実験した。

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また、ミカン下北近隣の「下北沢ビッグベンビル」入居者でD2Cファッションブランドを手掛ける株式会社yutoriとの会話の中で生まれたイベントが「YZ SHIMOKITA COLLECTION」である。
ミカン下北の飲食店が立ち並ぶ通りがブルーライトで照らされ、ランウェイに生まれ変わった。
「下北沢という街は、失敗を許容してもらえる温かみのある街だと思うんです。」
角田氏いわく、下北沢という街はいろんなことをやっていこう、というマインドが高い街なのである。

新しいシモキタをつくる、「実験区長」

「この施設では、販促計画はないし、施設側から店にこんなプロモーションをします、というのはないんです。僕なりに、ザ・商業施設みたいなものへのアンチテーゼもあるのかもしれない。
お金をかけてプロモーションを行うのではなく、本当に悩んでいるもの、困っていることが解決されていく方がうれしいんです。」

そうは言っても施設の売上や来客数が気になるのが普通のサラリーマンであるが、角田氏は、一味違う。

その名刺には、こんな肩書が記されている。

「実験区長」

自ら肩書を発案し、「実験区長」の名刺を作成したという。

角田さんって、異端児ですよね?
失礼は承知の上でそう尋ねてみると、角田氏は笑いながらこう答えた。

「異端かもしれませんね(笑)。でも、きちんと普通の運営をして利益を立てている施設もあります。このミカン下北は、かなり実験的な取り組みを行っている。両輪でやらせてもらっています。」

通常、商業施設では、動線の確保や他店のクレームなどを懸念して、店舗が外にせり出してくることを嫌がる。
しかし、ミカン下北は違う。
「机とかも、ジャンジャン出してください。もっと出したら?というんです(笑)。にぎわいがせり出したほうが、いいでしょう?」

変わりゆくシモキタ、変わらないシモキタ

今後のシモキタは、どのような方向に向かってゆくのか?
シモキタの変わったと思うところ・変わらないと思うところを、角田氏に聞いてみた。

「ハード的な部分は大きく変わりました。しかし、根本の部分は変わらないと思っています。シモキタの人たちは熱量を高く持っている。
『シモキタらしさ』というのは、人によってとらえ方が違っていて、カルチャーもそれぞれが独自に成長していた。だけど実は、いろんな人と混ざり合いたいと、それぞれが考えていたりして。そこを街全体でつなげて、盛り上げていきたいと考えています。
『働く』の文脈で面白そうだと思っていて、プレーヤーをもっと増やしていきたいですね。」

情熱を持った新しい風が、シモキタに旋風を巻き起こすのか。
ミカン下北が、「実験区長」角田匡平氏が、カタリストとなって下北沢の街の魅力をますます盛り上げてゆく。
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