イベント会場を選ぶ際、アクセスや収容人数、設備、コストといった条件は欠かせません。一方、その場所が持つ景観や音、人の流れまで企画に取り込むことで、そこでしか生まれない体験をつくることもできます。
芸能山城組の「ケチャまつり」は、1976年の第1回から、JR新宿駅西口から徒歩約5分の場所にある、新宿三井ビルディングの55HIROBAを主な舞台としてきました。新しく生まれた広場と、都市で新たな祭りを実践しようとしていた山城組は、どのように出会い、約50年にわたる関係を築いてきたのでしょうか。
前編に続き、2025年より芸能山城組に「祭仲間」として活動参加するベニューリンク編集部の尾亦が、40年以上にわたり活動を続けている本田学氏に、会場選定と施設との関係づくりのヒントを聞きました。
(Profile)
本田 学(ほんだ・まなぶ)氏
国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 部長
1988年京都大学医学部卒業。1995年京都大学医学研究科博士課程修了。米国国立保健研究所(NIH)訪問研究員、自然科学研究機構生理学研究所准教授などを経て、2005年9月から現職。学生時代は関西地方を中心に活動し、ケチャまつりや公演などの大きなイベントごとに東京に通っていた。大学院入学と同時に、芸能山城組の中の研究集団である文明科学研究所(所長:大橋力、芸能山城組組頭・山城祥二の本名)の一員として本格的に研究活動に参画。現在は、組頭・山城祥二こと科学者・大橋力が発見したハイパーソニック・エフェクトを健康・医療領域に応用した「情報医療」の研究開発に取り組んでいる。
尾亦耕平(おまた・こうへい)
電通ライブ 経営推進局 AI・ワークイノベーション部、ベニューリンク編集部所属。大学で建築を学ぶもドロップアウト。映画好き(もちろん『AKIRA』大好き)が高じて、広告映像の世界へ。フィルム、デジタル/リアル空間体験、アート〜ストーリーテリングまで幅広く手がける。音に人一倍こだわりをもち、水族館やフラワーアート展示などにおけるサウンドインスタレーションを行ってきた。2024年にケチャまつりを初鑑賞。文字通り心動かされ、祭りの設営や露店などの運営支援、一部演目を担う「祭仲間」として芸能山城組に参画。2025年に夏のケチャまつり、冬の公演に続き、今夏のケチャまつりに向け年始早々に有給取得申請済み。目下、毎週の稽古や美術セットづくりを手伝う。
芸能山城組の「ケチャまつり」は、1976年の第1回から、JR新宿駅西口から徒歩約5分の場所にある、新宿三井ビルディングの55HIROBAを主な舞台としてきました。新しく生まれた広場と、都市で新たな祭りを実践しようとしていた山城組は、どのように出会い、約50年にわたる関係を築いてきたのでしょうか。
前編に続き、2025年より芸能山城組に「祭仲間」として活動参加するベニューリンク編集部の尾亦が、40年以上にわたり活動を続けている本田学氏に、会場選定と施設との関係づくりのヒントを聞きました。
(Profile)
本田 学(ほんだ・まなぶ)氏
国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 部長
1988年京都大学医学部卒業。1995年京都大学医学研究科博士課程修了。米国国立保健研究所(NIH)訪問研究員、自然科学研究機構生理学研究所准教授などを経て、2005年9月から現職。学生時代は関西地方を中心に活動し、ケチャまつりや公演などの大きなイベントごとに東京に通っていた。大学院入学と同時に、芸能山城組の中の研究集団である文明科学研究所(所長:大橋力、芸能山城組組頭・山城祥二の本名)の一員として本格的に研究活動に参画。現在は、組頭・山城祥二こと科学者・大橋力が発見したハイパーソニック・エフェクトを健康・医療領域に応用した「情報医療」の研究開発に取り組んでいる。
尾亦耕平(おまた・こうへい)
電通ライブ 経営推進局 AI・ワークイノベーション部、ベニューリンク編集部所属。大学で建築を学ぶもドロップアウト。映画好き(もちろん『AKIRA』大好き)が高じて、広告映像の世界へ。フィルム、デジタル/リアル空間体験、アート〜ストーリーテリングまで幅広く手がける。音に人一倍こだわりをもち、水族館やフラワーアート展示などにおけるサウンドインスタレーションを行ってきた。2024年にケチャまつりを初鑑賞。文字通り心動かされ、祭りの設営や露店などの運営支援、一部演目を担う「祭仲間」として芸能山城組に参画。2025年に夏のケチャまつり、冬の公演に続き、今夏のケチャまつりに向け年始早々に有給取得申請済み。目下、毎週の稽古や美術セットづくりを手伝う。
条件よりも情景を。新宿の高層ビル群に、なぜ祭りを持ち込んだのか
尾亦 前編では、都市で失われた祭りを未来のプロトタイプとして実践する意義を伺いました。後編では、その実践の舞台である新宿という場所について深掘りさせてください。イベントの会場選びではスペックが重視されがちですが、山城組の会場選定には、アクセスや収容人数だけでは測れない非常に強い思想を感じます。
本田 山城組が55HIROBAを選んだのは、単に広いスペースが空いていたからではありません。あの空間は、当時の近代建築技術の粋を集めた、極めて先端的な都市構想を実現しようという場所です。
超高層ビルが林立する予定(当時は現在の半分以下)のなかで、広場は周囲の街路のレベルから一段下がったサンクンガーデンです。広場自体がアリーナ型になっていることと周囲をビル群に囲まれていることで、良い具合に開放的でありながら、良い具合に閉じられた、独特の構造になっています。
そして、レンガ調のタイルの広場には樹冠がリッチなけやきがほどよく配置され、レンガタイルと樹冠の反響で音響的に優れた特性がありました。視覚的にも、モノトーンの高層ビルのなかで、樹木と土を感じさせる自然とつながる癒し情報を唯一持っていました。
本田 山城組が55HIROBAを選んだのは、単に広いスペースが空いていたからではありません。あの空間は、当時の近代建築技術の粋を集めた、極めて先端的な都市構想を実現しようという場所です。
超高層ビルが林立する予定(当時は現在の半分以下)のなかで、広場は周囲の街路のレベルから一段下がったサンクンガーデンです。広場自体がアリーナ型になっていることと周囲をビル群に囲まれていることで、良い具合に開放的でありながら、良い具合に閉じられた、独特の構造になっています。
そして、レンガ調のタイルの広場には樹冠がリッチなけやきがほどよく配置され、レンガタイルと樹冠の反響で音響的に優れた特性がありました。視覚的にも、モノトーンの高層ビルのなかで、樹木と土を感じさせる自然とつながる癒し情報を唯一持っていました。

ケチャまつりの装飾「バリ寺院の城門(パドラクサ)」と超高層ビルの景観が織りなすコントラストが、唯一無二の空間をつくり出す

レンガ床やけやきにバリ島の民族柄などで装飾された、ケチャまつり当日の55HIROBA。竹製打楽器「ジェゴク」の試打の時間には組員が来場者に手ほどきを行う。夕暮れにかけて会場は観客で埋まっていく
尾亦 高層ビルに囲まれた広場で、裸足の人たちが声と身体だけで演じる。あのコントラストは、森や郊外ではなく高度経済成長期の象徴である新宿でこそ生まれる演出でもあったのですね。
本田 その通りです。組頭・山城は、伝統的な芸能を昔ながらの場所で行うのではなく、最も先端的な場所で祭りをつくることに面白さを感じていました。近代的な高層ビルと、人間の身体や声だけによるケチャが同じ場所にある。その組み合わせによって、双方が互いを強く際立たせるんです。
尾亦 会場を選ぶというより、企画の意味を最も引き出せる場所を見つけた、ということですね。
本田 そうだと思います。人が集まれる場所なら、どこでも良いわけではありません。近代文明批判の象徴としての祭りをその場所に置いたとき、音がどう響くのか、人がどう集まるのか、周囲の景観とどんな関係が生まれるのか。55HIROBAには、ケチャまつりを物理的に成立させる条件だけでなく、あえて最先端の都市という印象そのものを強める力がありました。
本田 その通りです。組頭・山城は、伝統的な芸能を昔ながらの場所で行うのではなく、最も先端的な場所で祭りをつくることに面白さを感じていました。近代的な高層ビルと、人間の身体や声だけによるケチャが同じ場所にある。その組み合わせによって、双方が互いを強く際立たせるんです。
尾亦 会場を選ぶというより、企画の意味を最も引き出せる場所を見つけた、ということですね。
本田 そうだと思います。人が集まれる場所なら、どこでも良いわけではありません。近代文明批判の象徴としての祭りをその場所に置いたとき、音がどう響くのか、人がどう集まるのか、周囲の景観とどんな関係が生まれるのか。55HIROBAには、ケチャまつりを物理的に成立させる条件だけでなく、あえて最先端の都市という印象そのものを強める力がありました。
貸す側・借りる側を超えた共鳴。広場との出会いが、祭りの形をつくった
尾亦 55HIROBAとの出会いは、イベント制作者としてもとても興味深いです。完成した会場へ企画を持ち込んだというより、広場と祭りがお互いを選び合ったようにも感じます。
本田 まさに、その感覚ですね。当時、三井不動産の本社は新宿三井ビルにありました。しかし、そのころの新宿は東口ばかりに人が集まり、西口にはそこで働くビジネスパーソン以外、ほとんど人が寄り付かない状況でした。せっかく55HIROBAを造ったものの、一向に人が集まらなかったのです。
そんなとき、山城が、伝統的な共同体を基盤とする人間本来の祭り「ケチャまつり」を構想していました。山城は、この熱いエネルギーを持つ祭りを、あえて近代都市の最先端で開催することに意味があると考え、55HIROBAも候補地の一つとして検討していました。
西武百貨店を中心とした日本最大級の流通系グループだったセゾングループの代表だった堤清二さんをはじめとする、多くの山城組の応援団が熱心に会場を探していたため、その噂は三井不動産の広報室長であった鬼澤正さんの耳にも届いたのだと思います。さらに、55HIROBAの設計コンセプトに携わっていたイベントプロデューサーの浜野安宏さんも山城と親交があり、「ケチャこそ55HIROBAのためにあるような芸能だ」と強く推薦してくれたのです。
類いまれな条件とポテンシャルを持つ55HIROBAと、最先端の都市で祭りをやりたかった山城が結びついたのは、ある意味で必然だったのかもしれません。こうして、「新宿ケチャまつり」の開催が実現へと向かっていきました。
本田 まさに、その感覚ですね。当時、三井不動産の本社は新宿三井ビルにありました。しかし、そのころの新宿は東口ばかりに人が集まり、西口にはそこで働くビジネスパーソン以外、ほとんど人が寄り付かない状況でした。せっかく55HIROBAを造ったものの、一向に人が集まらなかったのです。
そんなとき、山城が、伝統的な共同体を基盤とする人間本来の祭り「ケチャまつり」を構想していました。山城は、この熱いエネルギーを持つ祭りを、あえて近代都市の最先端で開催することに意味があると考え、55HIROBAも候補地の一つとして検討していました。
西武百貨店を中心とした日本最大級の流通系グループだったセゾングループの代表だった堤清二さんをはじめとする、多くの山城組の応援団が熱心に会場を探していたため、その噂は三井不動産の広報室長であった鬼澤正さんの耳にも届いたのだと思います。さらに、55HIROBAの設計コンセプトに携わっていたイベントプロデューサーの浜野安宏さんも山城と親交があり、「ケチャこそ55HIROBAのためにあるような芸能だ」と強く推薦してくれたのです。
類いまれな条件とポテンシャルを持つ55HIROBAと、最先端の都市で祭りをやりたかった山城が結びついたのは、ある意味で必然だったのかもしれません。こうして、「新宿ケチャまつり」の開催が実現へと向かっていきました。

ケチャまつりの歴史を語る本田氏と、その言葉に深く耳を傾ける尾亦氏
尾亦 つまり「広場の価値を育てたい施設側」と「都市で祭りを実践したい山城組」の思いが重なったわけですね。
本田 そうです。「この広場で何を育てたいか」という思いを、施設側だけでなく、広場のコンセプトメーカーや設計者はもちろん、地域計画、新宿新都心開発協議会、新宿三井ビル商店会、地元住民まで共有していくこととなり、長い付き合いにつながりました。
尾亦 1976年の第1回開催から、どのようにして半世紀に及ぶ関係へとつながっていったのでしょうか。
本田 初回を開催した直後、広報室長の鬼澤さんは「ぜひ来年も、ここでやってください」と言ってくださったんです。
過去に例のない取り組みでしたから、最初はどういう反応が出るか予想できなかったわけですが、積み重ねにより、翌年、さらにその次の年へとつながっていったんです。なにより、観客として毎年来てくださるお客様の支援が大きいと思います。世代を超えて来てくださるご家族もいます。
本田 そうです。「この広場で何を育てたいか」という思いを、施設側だけでなく、広場のコンセプトメーカーや設計者はもちろん、地域計画、新宿新都心開発協議会、新宿三井ビル商店会、地元住民まで共有していくこととなり、長い付き合いにつながりました。
尾亦 1976年の第1回開催から、どのようにして半世紀に及ぶ関係へとつながっていったのでしょうか。
本田 初回を開催した直後、広報室長の鬼澤さんは「ぜひ来年も、ここでやってください」と言ってくださったんです。
過去に例のない取り組みでしたから、最初はどういう反応が出るか予想できなかったわけですが、積み重ねにより、翌年、さらにその次の年へとつながっていったんです。なにより、観客として毎年来てくださるお客様の支援が大きいと思います。世代を超えて来てくださるご家族もいます。

5オクターブにおよぶ豊かな音域の竹製打楽器「ジェゴク」のオーケストラ演奏がサンクンガーデン全体を響かせる
尾亦 イベントを制作する際は、会場は条件によって変わるものという考え方もあります。一方で、同じ場所を育てるという考え方もあるのですね。
本田 そうですね。ただ、ケチャまつりは55HIROBAだけで開催していたわけではありません。かつては西武グループの新しいショッピングセンターや駐車場に招待され、大型バスや11トントラック数台を連ねて全国を巡業した時期もあります。
だからこそ分かったのは、「開催できる場所」と「この祭りが最も力を発揮できる場所」は違うということでした。当然ですが会場ごとに山城はその空間に合った演出を考えて実施してきました。場所が変われば、祭りの見え方も体験も変わります。
55HIROBAには、都市の真ん中にありながら人が自然と滞留できる広がりがあります。高層ビルに囲まれたスケール感、音の響き、人の流れ、広場全体の空気感が重なって、ケチャまつりという体験が生まれています。逆に言えば、ケチャまつりもまた、55HIROBAによって形づくられてきたんです。
尾亦 完成された会場に企画を綺麗に当てはめるのではなく、都市空間の制約や課題をクリエイティブに解決する中で、あの場所ならではの形がつくられていったのですね。
本田 そうですね。その場所が持っている歴史や景観、人の流れ、空気まで含めて企画になる。だから山城は、「ここを借りよう」という感覚より、「この場所でしか生まれない祭りをつくろう」という感覚で、55HIROBAと向き合ってきたといえます。
本田 そうですね。ただ、ケチャまつりは55HIROBAだけで開催していたわけではありません。かつては西武グループの新しいショッピングセンターや駐車場に招待され、大型バスや11トントラック数台を連ねて全国を巡業した時期もあります。
だからこそ分かったのは、「開催できる場所」と「この祭りが最も力を発揮できる場所」は違うということでした。当然ですが会場ごとに山城はその空間に合った演出を考えて実施してきました。場所が変われば、祭りの見え方も体験も変わります。
55HIROBAには、都市の真ん中にありながら人が自然と滞留できる広がりがあります。高層ビルに囲まれたスケール感、音の響き、人の流れ、広場全体の空気感が重なって、ケチャまつりという体験が生まれています。逆に言えば、ケチャまつりもまた、55HIROBAによって形づくられてきたんです。
尾亦 完成された会場に企画を綺麗に当てはめるのではなく、都市空間の制約や課題をクリエイティブに解決する中で、あの場所ならではの形がつくられていったのですね。
本田 そうですね。その場所が持っている歴史や景観、人の流れ、空気まで含めて企画になる。だから山城は、「ここを借りよう」という感覚より、「この場所でしか生まれない祭りをつくろう」という感覚で、55HIROBAと向き合ってきたといえます。
脳を揺さぶる快感が都市に必要。祭りは繰り返すことで文化になる
尾亦 約50年にわたり同じ場所で反復し続けたことで、ケチャまつりは新宿の夏の風物詩になりました。多様で斬新なイベントが求められる中、繰り返し開催することの価値をどのような部分に感じていらっしゃいますか。
本田 山城が提唱した、人間の脳の階層構造についてのモデルを踏まえてお話したいと思います。脳の一番外側には経験で書き換わる「大脳皮質」があります。この部分は経験に大きく依存するので、個人の好みによって働きが異なる。その内側の中間層には文化で決まる「大脳基底核」があります。社会や文化ごとに異なる好みを生み出すが、同じ社会や文化の中では同じものが好まれる。いわゆる「刷り込み脳」とも呼ばれる場所です。そして、最も深いコアにあるのが、私たちがケチャまつりでターゲットとしている「脳幹」です。
「脳幹」の構造や機能は、個人を超えて人類共通なので、ここには好みの多様性は存在せず、全人類が理屈抜きで同じ反応を示します。脳幹を刺激する強力な情報のひとつが、ケチャやガムランが刻む16ビートです。これは西洋音楽が生まれるよりもはるか昔、100万年前の狩猟採集民の時代から人類が共有してきたビートと考えられています。
もうひとつの例が、山城こと大橋が発見した「ハイパーソニック・エフェクト」を引き起こす、人間の耳には聞こえない20kHz以上の超高周波を豊富に含む音です。ガムランの響きやケチャの叫び声は超高周波をたっぷりと含んでいます。
CDなど従来のデジタル音響技術では、「聞こえないから」という理由で超高周波を一律カットしてしまいますが、超高周波を豊富に含む音を浴びると、快感を司る脳の「報酬系」が劇的に活性化することが先端的な脳イメージングで明らかにされています。
本田 山城が提唱した、人間の脳の階層構造についてのモデルを踏まえてお話したいと思います。脳の一番外側には経験で書き換わる「大脳皮質」があります。この部分は経験に大きく依存するので、個人の好みによって働きが異なる。その内側の中間層には文化で決まる「大脳基底核」があります。社会や文化ごとに異なる好みを生み出すが、同じ社会や文化の中では同じものが好まれる。いわゆる「刷り込み脳」とも呼ばれる場所です。そして、最も深いコアにあるのが、私たちがケチャまつりでターゲットとしている「脳幹」です。
「脳幹」の構造や機能は、個人を超えて人類共通なので、ここには好みの多様性は存在せず、全人類が理屈抜きで同じ反応を示します。脳幹を刺激する強力な情報のひとつが、ケチャやガムランが刻む16ビートです。これは西洋音楽が生まれるよりもはるか昔、100万年前の狩猟採集民の時代から人類が共有してきたビートと考えられています。
もうひとつの例が、山城こと大橋が発見した「ハイパーソニック・エフェクト」を引き起こす、人間の耳には聞こえない20kHz以上の超高周波を豊富に含む音です。ガムランの響きやケチャの叫び声は超高周波をたっぷりと含んでいます。
CDなど従来のデジタル音響技術では、「聞こえないから」という理由で超高周波を一律カットしてしまいますが、超高周波を豊富に含む音を浴びると、快感を司る脳の「報酬系」が劇的に活性化することが先端的な脳イメージングで明らかにされています。

トリの演目となる「ケチャ」。ケチャまつり会場全体が一体となる
尾亦 なるほど、だからケチャのビートと響きに、理屈抜きで人を引きつけるのですね。
本田 こうした超高周波は、人類の遺伝子と脳が進化のなかで創られた熱帯雨林の自然環境にはふんだんに含まれていますが、現代のコンクリートに囲まれた都市環境では、致命的に欠落しています。自力で脳の報酬系を興奮させられなくなった都市生活者が、その乾きからアルコールやギャンブルなどの依存症に陥ってしまうのは、ある意味で当然の飢餓状態なのです。
だからこそ私たちは、人間が健康に生きるために不可欠なこの「脳幹直撃の快感」を、薬物でもお金でもなく、人と人が力を合わせるお祭りという健全な形で都市に供給しているのです。
尾亦 人類共通の心地よさが、新宿のあの広場で毎年立ち上がる。それが「またあの季節が来たら、あの場所に行かなければ」という強い引力になっていくわけですね。
本田 まさにその通りです。少し余談になりますが、急な斜面で水田農耕を行っているバリ島は、水の奪い合い、すなわち「水争い」が起こりやすいという潜在的な社会構造があります。それにもかかわらず、現地で調べてみても水争いの記録がほとんど残っていません。
というのも、水争いで村が分裂すると、全員で力を合わせるお祭りができなくなり、お祭りの中で生み出される「トランス状態」という究極の快感を味わえなくなるからだとも考えられます。祭りの中で生み出される快感が持つ強い引力が、人々の分断やいさかいを未然に防ぐシステムとして機能してきたわけです。
本田 こうした超高周波は、人類の遺伝子と脳が進化のなかで創られた熱帯雨林の自然環境にはふんだんに含まれていますが、現代のコンクリートに囲まれた都市環境では、致命的に欠落しています。自力で脳の報酬系を興奮させられなくなった都市生活者が、その乾きからアルコールやギャンブルなどの依存症に陥ってしまうのは、ある意味で当然の飢餓状態なのです。
だからこそ私たちは、人間が健康に生きるために不可欠なこの「脳幹直撃の快感」を、薬物でもお金でもなく、人と人が力を合わせるお祭りという健全な形で都市に供給しているのです。
尾亦 人類共通の心地よさが、新宿のあの広場で毎年立ち上がる。それが「またあの季節が来たら、あの場所に行かなければ」という強い引力になっていくわけですね。
本田 まさにその通りです。少し余談になりますが、急な斜面で水田農耕を行っているバリ島は、水の奪い合い、すなわち「水争い」が起こりやすいという潜在的な社会構造があります。それにもかかわらず、現地で調べてみても水争いの記録がほとんど残っていません。
というのも、水争いで村が分裂すると、全員で力を合わせるお祭りができなくなり、お祭りの中で生み出される「トランス状態」という究極の快感を味わえなくなるからだとも考えられます。祭りの中で生み出される快感が持つ強い引力が、人々の分断やいさかいを未然に防ぐシステムとして機能してきたわけです。

バリ島の棚田。一年を通して何度も行われる祭りは水の公平な分配など社会システムの維持にとっても、非常に重要だという
尾亦 都市生活の中で分断されがちな現代人が、55HIROBAに集まって一体感を味わうことにも、それと同じような現代的な救いがあるように感じます。
本田 現代のイベント制作者の方々に伝えられることがあるとすれば、流行や「大脳皮質」レベルの多様性だけに振り回されず、人間が遺伝子レベルで求めているコアの部分に訴えかける場をつくる、という視点です。目先の経済的な対価や効率だけを優先すると、この本質的な部分が崩れてしまいます。
尾亦 単発型のイベントは、目先の効率や一度きりの消費で完結してしまいます。しかし、施設側と主催者が長期的なパートナーとして関係を結び、一つの場所に体験を積み重ねていくことで、場所に個性が生まれ、繰り返される催しはやがて「文化」と呼べるものへと育っていく。それこそが、単発のイベントでは生み出せない価値ではないでしょうか。
前編では、祭りとは人と人とのつながりを育む営みだと伺いました。その営みは、実は人だけでなく「場所」そのものも育てていくのだと思います。だからこそ企画において大切なのは、「どこを借りるか」という選択以上に、「その場所とどう時間を重ねていくか」という視点なのではないかと感じています。今回は貴重な対話の時間をありがとうございました。
------
「第48回 芸能山城組 ケチャまつり」は7月29日(水)〜8月2日(日)、新宿三井ビルディング 55HIROBAにて開催。最新情報はSNS(X・インスタグラム)よりご確認下さい。
X:@yamashirogumi|Instagram:@yamashirogumi_official|芸能山城組公式サイト:www.yamashirogumi.jp
また、今年11月22日(日)、なかのZEROにて「幻響『鳴神』」を上演します。歌舞伎十八番『鳴神』をモチーフとし、1978年から40年以上にわたり上演されてきた山城組の代表作「群芸『鳴神』」を新たな形で再創作した舞台です。8年ぶりの上演となる本公演では、山城組入門初心者「花若」や「祭仲間」として、出演・参加することもできます。
write & edit: yoko sueyoshi
photo: hideki ookura
本田 現代のイベント制作者の方々に伝えられることがあるとすれば、流行や「大脳皮質」レベルの多様性だけに振り回されず、人間が遺伝子レベルで求めているコアの部分に訴えかける場をつくる、という視点です。目先の経済的な対価や効率だけを優先すると、この本質的な部分が崩れてしまいます。
尾亦 単発型のイベントは、目先の効率や一度きりの消費で完結してしまいます。しかし、施設側と主催者が長期的なパートナーとして関係を結び、一つの場所に体験を積み重ねていくことで、場所に個性が生まれ、繰り返される催しはやがて「文化」と呼べるものへと育っていく。それこそが、単発のイベントでは生み出せない価値ではないでしょうか。
前編では、祭りとは人と人とのつながりを育む営みだと伺いました。その営みは、実は人だけでなく「場所」そのものも育てていくのだと思います。だからこそ企画において大切なのは、「どこを借りるか」という選択以上に、「その場所とどう時間を重ねていくか」という視点なのではないかと感じています。今回は貴重な対話の時間をありがとうございました。
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「第48回 芸能山城組 ケチャまつり」は7月29日(水)〜8月2日(日)、新宿三井ビルディング 55HIROBAにて開催。最新情報はSNS(X・インスタグラム)よりご確認下さい。
X:@yamashirogumi|Instagram:@yamashirogumi_official|芸能山城組公式サイト:www.yamashirogumi.jp
また、今年11月22日(日)、なかのZEROにて「幻響『鳴神』」を上演します。歌舞伎十八番『鳴神』をモチーフとし、1978年から40年以上にわたり上演されてきた山城組の代表作「群芸『鳴神』」を新たな形で再創作した舞台です。8年ぶりの上演となる本公演では、山城組入門初心者「花若」や「祭仲間」として、出演・参加することもできます。
write & edit: yoko sueyoshi
photo: hideki ookura
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