にぎわい探訪

SNSで話題の展示会『いい人すぎるよ展』に学ぶ、これからの時代の「にぎわい」のつくり方

2023年6月、「集合写真で中腰の人」や「電話なのにお辞儀してる人」などの日常に潜む“いい人”を集めた『いい人すぎるよ展』が初開催。
告知されるや否や、チケットが即完売となり、Z世代に話題の展示会としてSNSを中心に大きなニュースとなった。
その後2023年10月に『いい人すぎるよ展+やだなー展 2nd Season』を開催すると16日間で25,000人を動員する大ヒットに。
この話題の展示会を仕掛けた “entaku”のメンバーでもあり、『いい人すぎるよ展』の企画を担当した電通の真子千絵美さん(現在Think & Craft/電通クリエーティブXに出向中)にインタビュー。
これからの時代の「にぎわい」のつくり方を探っていく。

真子千絵美さん

■『いい人すぎるよ展』が生まれるまで

―『いい人すぎるよ展』はSNSを中心に、若者に大変話題の展示会となりました。
 この展示会が生まれたのは、どんな経緯からだったんでしょうか?

(真子千絵美さん:以下真子氏)
新人時代のトレーナーだった明円卓さん(クリエーティブディレクター/株式会社kakeru代表)が、きっかけをつくってくれたんです。
私は実は美大出身というのもあって、何か展示を企画するような仕事をしてみたかったんですけど、なかなかそのような機会がなくて……。
「展示の仕事がやりたい」という話を明円さんにしていたら、「じゃあ、二人でやってみよう」ということで自主企画で展示会を二人でやるようになったんです。
何回か自分たちで主催の展示会をやっていたんですけど、明円さんが独立された後に自分のオフィスを使って開催した『やだなー展』がすごい話題になりまして。
次の展示会を企画しているときにお声掛けを頂いたんです。

―そんな背景で生まれた『いい人すぎるよ展』ですが、テーマを“いい人”にした理由はなぜですか?

(真子氏)
まず、これまでの展示と比べて『やだなー展』が話題になった理由を明円さんと考えていました。その時に気づいたのは、“SNSで言いたくなるか”どうか。“体験としてその場で面白いか”だけでいうと、『やだなー展』以前にやっていた展示も楽しかったとはと思うんです。でも、“SNSにあげたくなるか”で言うと、そうではなかった。その点『やだなー展』は、誰もが感じてる日常の小さな出来事にフォーカスしたので、「わかる〜」という共感や、「自分の場合は〜」と自分語りしたくなるような発話要素が強かったのかもと分析しました。そこで、同じ“日常の共感を切り取る”中で、別の切り口はないかを考えていって、そこで「いい人」にフォーカスすることに決まりました。

実際の会場の様子

■共感をキーワードに、体験を設計する

―この展示会が大きな話題になった要因は何だったと思いますか?

(真子氏)
先ほどお話ししたように、“日常の共感を切り取る”ことから逆算したことは大きいと思います。
その上で、企画する時は気付かず終わってから思ったのですが、『やだなー展』よりも広がった理由は二点あるかなと思っています。
一つ目は、「分かる!」という共感が、自分のことだけではなくて、自分の近しい人への目線としての「あるある」になっていたこと。来てくれた人の反応で一番多かったのが、「友達を思い出した」「自分の周りっていい人が多いんだと気づいた」というような、人を思い出す反応で。周りの人に伝えたくなる/誰かについて話したくなる分、発話のフックが多かったんだろうなと思います。
二つ目は、 人を誘いたくなる展示だったこと。『やだなー展』はちょっとネガティブを笑うものではあるので、少し人を誘いにくくはある。でも『いい人』だったらなんだか自分も優しい人な印象を与える気がして誘いたくなる。実際、友達同士とかカップルとか、複数人で来てくれた人もかなり多かったです。

展示の様子

■「にぎわい」をつくり出すためのテクニック

―実際にイベントを始めてみた後だったり、そこからの逆算で“にぎわい”づくりのために
 意識しているポイントはありますか?

(真子氏)
会場選びと、広げるための動画づくりにはこだわっています。
まず会場については、できれば路面沿いに位置して外から中が見えるつくりになっていること。
知らない人が前を通って入りたくなったり、その場では参加しなくても面白そうと記憶に残ることは大事かなと思ってます。また、私たちの展示は、展示物自体はただのパネルやものだったりするので、空間もシンプルでありつつサマになるというかオシャレに見える場所がいいなと思っています。そういう意味で、東京だとミルギャラリーはちょうど良く、何度か利用しています。
あとは、広げるための動画づくり。私たちは展示開催前に展示内容をイメージできる動画を毎回公開していて。その時、SNSでどういう動画が上に上がるのか、アルゴリズムを踏まえた上で作るようにしています。冒頭に気になる情報を入れるとかは普通にありつつですが、例えば、1週間前とかだと、会場は基本前日に設営するので、展示された物は存在しないんです。でも、見た人は“どこでどういう感じの展示をするのか”が一番気になる。なので展示した風の壁とパネルを事前に一部つくって撮影したりしています。

展示の様子

■これからの時代の「にぎわい」のつくり方

―いくつかの展示会を実際につくってみて、これからの時代の「にぎわい」のつくり方について、考えていることはありますか?

(真子氏)
難しいですね…。でも、やってみて分かったというか面白かったのは、面白いと言ってもらえるのは『やだなー展』の方が多かったんですけど、シェア数や来場者数が多かったのは『いい人すぎるよ展』。人が何に共感して、そこからどんなアクションをしていくのかは私たちもまだつかみ切れていないところなので、これからも色々と試していきながら、人の心がどう動いていくのかを見ていきたいです。
entakuで活動する中で一番思うのは、やってみることの大切さ。
企画は正直多くの人ができると思うんです。でも、それを企画で終わらせちゃうことの方が多い。そうじゃなくて、どんなに小さくてもやってみる。お金もかかるし確実に話題になるかなど読めないことも多いのですが、「リスクがある中でも挑戦しないとわからないよね」というのが、entakuと、それを主催する明円さんのスタンスです。実際にやってみた経験から語れることの説得力は強いですし、やったからこそわかることもある。
 だから、どんなアイデアでも「試してみる」ことを大切に、これからも面白いテーマで世の中に“にぎわい”をつくっていきたいなと思います。

来場者の声を集める体験型の展示も

話題のイベントの裏側には、緻密な体験設計と、リアルな場だけではないSNSも含めた“にぎわい”のつくり方のヒントがたくさん詰まっていた。
現在PARCOとコラボレーションをして、各地で巡回展をしている同イベント。
これから日本中で、話題を生み出しつづけるであろうこの展示会は、次の時代の“にぎわい”の、ひとつのスタンダードになり得るのかもしれない。

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