【大阪・関西万博レポ…

【大阪・関西万博レポ③】没入体験でひらく未来。テクノロジーで感覚に響かせる

大阪・関西万博のパビリオンでは、最先端テクノロジーを駆使した展示が数多く登場しました。来場者の感覚を直接揺さぶる体験をもたらすXRやAI、アバターといった技術を生かし、未来を「自分事」として考えさせる仕掛けが随所に散りばめられていました。こちらのレポートでは、没入型演出がどのように形づくられ、来場者にどのような感情の余韻を残したのかをひも解きます。

【ガスパビリオン おばけワンダーランド】押しつけないから届く。没入する楽しさで心に残る体験をつくり出す

一般社団法人日本ガス協会が出展する「ガスパビリオン おばけワンダーランド」のコンセプトは、「化けろ、未来!」です。展示の中心にあるのは、来場者がXRゴーグルを装着して参加する没入型の体験です。

その中心には、小学校高学年をメインターゲットに据えた体験設計があります。未来の担い手である子どもたちに向けて構築された体験だからこそ、キャラクター、XR技術、ストーリー、さらにはXRゴーグルの安全性検証まで一貫性をもって磨き込まれました。

「最大のこだわりは『楽しい』と感じられることです。体験中にこちらの言いたいことを詰め込みすぎない。伝えるべきことは体験後のゾーンで丁寧に補完する設計にしました」と語るのは、副館長の原寛之さんです。

副館長の原寛之さん

案内役のおばけ「ミッチー」は愛嬌のあるキャラクターで、子どもたちが直感的に入り込める導線です。そもそもこのパビリオンは、小学生をメインターゲットに据えて設計されているからこそ、体験全体の解像度が格段に高まっています。

メインの体験ゾーン「化ける体験エリア」には、「バケルゴーグル」と名づけられたXRゴーグルが置かれ、説明に従いながら装着。体験がスタートすると、リアルとバーチャルが融合し、おばけの世界に没入します。一人ひとりがおばけに化けて、アイテムをキャッチしたり、協力しながら謎の巨大おばけを倒したりと、エンターテインメント性に富んだ演出が展開されます。

XRゴーグルを通して見る風景は、ただの映像ではなく、全身が引き込まれていくような異世界体験を生み出していた。

企業発の環境啓発にとどまらず、「楽しい体験を最初に、理解はその後に」という構成が徹底されているのが印象的でした。

「XRゴーグルは早い段階から採用を決めていました。ただし安全性と年齢要件の検証は徹底しました。専門家の知見も取り入れ、小学校低学年でも問題なく装着・体験できるかを繰り返しテストしています。その結果、難しい説明ではなく、“楽しいおばけの世界を体験する”というストーリーを通して身体感覚に落とし込める構成となりました」

見えないものを「見える化」する発想とXRの親和性は高く、子どもでも直感的に入り込めます。ワクワクを前に出しつつ、CO₂やメタンといった目に見えないものを身体感覚に落とし込む切り口が秀逸です。

体験のクライマックスでは、全員で力を合わせて謎の巨大おばけを倒します。声や動作が演出と連動し、個々の体験を超えて、参加者同士が連携。XRの“パーソナル鑑賞”を“集団体験”へ拡張した最大の肝です。

「みんなで叫んだり、同じ現象を同時に目撃したりする。身体を通した共通体験は、記憶への定着度が圧倒的に違います」

全員で「化けろ~!」と叫びながら、レーザーで敵を倒している様子。夢中で手を伸ばし、声を合わせるうちに、会場全体が一体化していく

体験直後の「種明かし」ゾーンは、熱を冷ましすぎない余韻を重視。ミッチーをはじめおばけたちが、紗幕に投影され、あらためてCO₂やメタンについて解説します。XR体験で高まった没入感を、立体的なイメージで現実へとやさしく着地させる仕掛けで、理解を押し付けずに“腑に落ちる”状態へ誘います。

紗幕に映し出されたミッチー。無駄にたくさんのものを作ったり、消費したりして⽣まれたCO₂が、e-メタンという新しいエネルギーになる仕組みをかみ砕いて解説

そこから先は、カーボンリサイクルを核に2050年に都市ガスを100%カーボンニュートラル化するという業界ビジョンや、具体的な仕組みを映像・音・光で学習補完できる構成です。

最後のパネル展示ゾーン。ここにも、「バーを回すと上からおばけが現れる」というエンタメ要素を感じる仕掛けがあった

「メッセージを言葉で伝え過ぎない、でも、伝わる。そのバランスを最後まで議論しました。会場運営も体験価値の一部です。スタッフの声かけや誘導がきびきびと温かい。予約や動線にストレスが出やすい万博環境下で、現場チームのホスピタリティは体験の質を底上げしていました。どれだけ良いコンテンツでも、最後は人。だから研修と現場運用は徹底しました」

スタッフの声かけや笑顔、衣装までもが空間演出の一部として機能していた点は、たしかに印象的。コンテンツの余韻を支えるもうひとつの演出であり、空間プロデュースにおいて忘れてはならない要素だと感じられました。

また、サステナビリティは、演出だけでなく建築の素材にも及んでいます。「解体すれば終わり、ではない。解体した“その先”を見据えた建築にしました」と原さんが話すように、外装には大阪ガスが開発した放射冷却素材「SPACECOOL(スペースクール)」を採用。外皮で熱を遮ることで空調負荷を下げる実証も行っています。

主要構造は山留め鋼材や単管パイプなど再利用前提の資材で組み、会期後はそのまま別現場に循環できる設計。半年で解体する万博建築の宿命に対し、使い回せる資材で応えています。

建築面でも持続可能性を徹底し、細部に至るまで「未来をどう形づくるか」を問い続けたパビリオン。テーマパークのような楽しい体験を入口に、言葉で伝え過ぎず、体験や身体感覚、空間全体の演出で理解を促進する――それこそが、このパビリオンが提供する最大の価値だと感じました。

【三菱未来館】深海から宇宙まで、いのちをめぐる壮大な旅

三菱未来館は、「未知なる深海から遥かなる宇宙へ、いのちを巡る壮大な旅」をテーマにした体感型展示「JOURNEY TO LIFE」を公開しました。来場者は時空を超えて移動可能なバーティカルシャトル「JOURNEY TO LIFE」号に乗り込み、深海から火星まで7,500万キロメートルに及ぶ旅へと出発しました。

パビリオン自体も地上に浮かぶマザーシップのような形状

三菱未来館の公式キャラクター、ViVi(左)とNaNa(右)が旅の案内人

物語は、地球最初の生命が誕生したとされる深海の熱水噴出口から始まります。大画面に広がる海底の映像には、暗闇の中で熱水が噴き出し、そこに生命の芽生えがあったことが描かれました。観客は自らも海底に降り立ったかのような臨場感を味わいながら、生命のはじまりに立ち会う体験をしました。

物語のはじまりは地球と生命の誕生から。インパクトのあるアニメーションで観る人を引き込む

「『JOURNEY TO LIFE』では、『生命 × 科学 × エンターテインメント』を演出コンセプトに据えました。エンターテインメント性溢れる大迫力の映像は、最新の学術研究に基づいた科学的な表現を採用している点も大きな見どころ。科学がエンターテインメントの力になれる可能性を、徹底的に追求しています」

旅はやがて地球全体へと広がります。小さな生命が海を満たし、陸へ進出し、多様な生態系を形づくっていく様子が、迫力ある映像と音響演出で再現されます。こうした空間演出は、観客の視覚と聴覚を包み込み、映像鑑賞を超えた「進化を追体験する感覚」を呼び起こしました。

次にバーティカルシャトルは地球を離れ、宇宙へと飛び立ちます。到達するのは地球の双子の星とも呼ばれる火星です。NASAの観測データをもとに再現されたオリンポス山やマリネリス峡谷がスクリーンいっぱいに映し出され、圧倒的なスケール感を体感できました。さらに、未来の火星基地を訪れるシーンでは、人類が火星に生活の場を築く可能性が描かれ、いのちの旅が地球を超えて広がる未来を実感できました。

火星基地のイメージ映像が続き、未来の宇宙開発の一端を垣間見ることができる

加藤さんは、演出のこだわりについて、 「人類がまだ降り立ったことのない火星。その未知なる姿を、NASAの無人探査機が収集した実際の地形データを基にリアルに再現しました」と話します。

「赤茶色で覆われた地表面も、ただのイメージではありません。地表の土の色・岩の形などは、NASAの探査機が火星のあらゆるポイントで撮影した写真を参考にしました。かつてSFの世界で語られていた火星移住の夢も、今では各国が本気でその実現に向けて動き始めています。将来、最初に火星の大地に足を踏み入れる人類の前に広がるのは、まさにこの壮大な景色――科学が紡ぎ出した、リアルな火星の姿だと言えます」

展示のクライマックスでは、「なぜ地球にはいのちが満ち、火星は砂に閉ざされてしまったのか」という問いが提示され、映像に映し出される青い地球の姿は、観客に「奇跡の星」の尊さを強く訴えかけました。深海から宇宙までをめぐった後に見つめる地球は、出発前とはまったく違った意味を持って迫ってきました。

最後に美しい地球が出現

映像を観終えた後、出口へ向かう通路には、三菱グループの取り組みを紹介するパネル展示が並んでいた

最新の映像技術と空間演出を駆使し、来場者を壮大な物語の登場人物にする「JOURNEY TO LIFE」。深海の暗闇、宇宙の静寂、そして地球の輝き、すべてが一つにつながり、「いのちとは何か」という根源的な問いを私たちに投げかけました。

【大阪ヘルスケアパビリオン】25年後の自分と対面。「REBORN」をテーマにつながり合う体験型パビリオン

未来のヘルスケアや都市生活を体感できる「大阪ヘルスケアパビリオン」のテーマは「REBORN」。人は生まれ変われる、新たな一歩を踏み出すというコンセプトのもと、25年後の自分(アバター)と出会うという体験ができます。

一般的な体験にとどまらず“私だけのリボーン体験”として未来世界に入り込んでしまう。その理由は体験ルートにあると、山縣敦子さん(大阪ヘルスケアパビリオン広報・催事課長)は話します。

「自分を知る→25年後の自分に出会う→未来のヘルスケアを体験する→25年後の未来都市を体験する。この一連の流れがパビリオン全体の一体感を生んでいます」。

ゲストはまず、リボーンバンドを手首に装着しカラダ測定ポッドへ。約6分間で7つの項目(心血管や筋骨格、髪、肌など)を測定し、自身のカラダ測定年齢や健康状態を知ります。

7項目に加え、アプリでは40項目以上のカラダ測定結果が確認できる

その後、ドローンバスを想定した「ミライのライド」で25年後の大阪へ。窓を模したモニターには、未来の大阪の景色が流れ、期待感が高まります。降り立った未来の大阪で、カラダ測定データをもとに生成された25年後の自分と対面。目の前にいるのは自分でありながら、知らない人を見るような驚きと、新しい自分と出会ったような感動すら覚えます。ゲストの中には、想像した自分と違うからやり直したいという方もいれば、その容貌に自身の祖母の姿を重ね涙する海外の方もいるのだとか。

アバターとして25年後の姿を見せるのは、未来を“自分事”として捉えてもらうため

次に向かうミライのヘルスケア・ミライの都市ゾーンでは、さまざまな企業が、ヘルスケアに特化したブースを協賛出展。髪のケアや口腔ケア、食生活改善の提案など、各企業が独自性を打ち出しながらもPR色は一切排し、リボーンバンドを媒介とした未来のヘルスケアという一貫した体験を提供します。「リボーン体験」という世界観へのこだわりが強くうかがえる場所の一つです。

ブースごとに設置されたたまごマークのセンサーにリボーンバンドをかざせば、各ブースの体験が記録され、自身の健康スコアがアップ。未来の自分に少しずつ変化が現れます。

ゲストの健康データに基づいたレシピをおすすめされたり、ヘルスケアにちなんだサンプルなどが提供されたりする

最後に向かうのは「リボーンパレード」。各ブースでの体験を経て生まれ変わった「ミライのじぶん」のアバターたちが、ダンスパレードを繰り広げます。見た目は確実に老いているのに、動きはハツラツとして楽しそう。「ラストはみんなで踊るというのがいかにも大阪らしい。活気があっていいね」との声が多いそう。25年後の自分がのびのびと踊っている姿に自然と心が躍ります。

フィナーレのダンスパレード。アバターたちは外見にも変化が現れる

「自分自身の健康状態を知ることで皆さんそれぞれに気付きがあり、新しく何かをやってみようという気持ちが出てくると思うんです。自分が変われば未来が変わる、世の中も変わる、世界も変わる。自分次第で、いい方向へと変わっていけるということを体験いただきたいと考えています」と山縣さん。

自分にも未来があることを確かに感じ、ポジティブに受け止められる。ワクワクする未来が待っていると感じられる体験でした。

【いのちの未来】いのちについて考えるきっかけに。アンドロイドを含むロボットと人間の50年後と1000年後の世界を描く

黒一色、万博会場内でひときわ存在感を示すロボット工学の第一人者・石黒 浩がプロデュースするシグネチャーパビリオン「いのちの未来」。屋上面からゆるやかにカーブした壁面が地面へとつながり、その表面を滝のように水が流れ落ちます。

テーマは「いのちを拡げる」。命の源である「渚」が水で表現され、滝の先には渓谷のように拓けた空間が。「アーチ状の入口から滝を抜けるとモニターに映るアバターが迎えてくれます。流れる水の向こう側で50年後、1000年後の世界を体感し、また水を抜けて現代へもどってくる。水は空間を切り分けるという役割も担っています」と西島亮さん(2025年日本国際博覧会協会)。

運営面で石黒先生と目指したのは184日間で得られる膨大な記録と経験を未来に残すこと。人はサポートにまわり、ロボットやアバターが主体として行う運営を実証実験として導入しました。労働力不足を補うAIアバターやロボットたちは少人数の遠隔操作で成り立つ未来を実際に実演してみせました。本番期間中に得られたデータはこの先の研究に大きな成果として役立つと信じています。

アンドロイドアバター「ヤマトロイド」。人、猿、植物をモチーフにした個性豊かなアバターロボットたちと館内をめぐる

また、「50年後の未来を描くにあたって、最も意識したのは「本当にその未来が実現されている」と想起できるような未来感」だと、こちらも石黒先生、そして共創パートナーである各社との1年以上に及ぶ議論を経て作り上げられました。

来場者が乗り込む50年後の列車。違和感なく受け入れられるよう現代の列車の雰囲気を残しながらも、座席にはアンドロイドの少年がごく自然に座っている

館内は3つのゾーンに分かれ、「いのちを拡げる」というテーマのもと、それぞれに独立したストーリーとして構成されています。1つめのイントロダクションは「いのちの歩み」。土偶、埴輪、仏像、文楽人形に続き、最後に人型のアンドロイドが並びます。人は古来より人の形をしたものに、神聖なものや、いのち、そして希望を感じてきた。これからの未来はその希望をアンドロイドが受け継いでいくのではないか。そんなメッセージが込められています。

イントロダクションとして形あるものに命を宿す日本文化を紹介。来場者はいのちの歩みをふり返ると同時に、アンドロイドが生きる未来への想像を掻き立てられる

2つめのゾーンは「50年後の未来」。孫娘と祖母のストーリーが描かれます。人間の世界で普通にアンドロイドが暮らす世界で、現代の家族と同じように二人はさまざまな思い出を重ねていきます。孫は成長し、祖母は年を重ね人生の終わりに差しかかる。祖母は人として「ナチュラルエンディング」を迎えるのか、「自らの記憶だけをアンドロイドに引き継ぎ後世に残すのか?」―究極の選択に迫られます。

現代と変わらない、ありふれた孫と祖母の日常を追体験。特別なものではないからこそ、未来の選択がよりリアルに胸へと迫る

最後のゾーンは「1000年後のいのち」‟まほろば“。天高く伸びる筒状の空間で三体のアンドロイドが私たちを迎えます。私たちを受け入れるかのように大きく手を広げ、視線を合わせ、やさしくほほ笑みかける。なめらかな身体や動き、意思をもったような表情はもはや人間と何が違うのかと思うほど。日常の延長として見ていた50年後の未来から一変、神秘的な世界と命の拡がりを感じずにはいられません。

ラストに登場する三体のアンドロイド「モモ」。姿は進化し、なめらかでより人間に近い印象を受け、アンドロイドと生きる遠い未来世界を想起させる

人は自ら未来をデザインし、生きたい“いのち”を生きられる、と語る石黒先生と目指したパビリオン体験は、来館者がいのちの可能性や、いのちのあり方を知り、果たして自分はどう生きていくのか、そんなことを考えてもらうきっかけになればいい、というものでした。

SNSでは「色々な視点からいのちについて考えさせられる」という感想が圧倒的に多いのだとか。自分ならどうするか、家族に何を望むか――来場後はその議論が尽きないといいます。「うれしかったのは、海外の方も同じような感想をもたれているということ。国籍や言語を超え、私たちが伝えたいメッセージが、技術を通して届いているのだと実感しました」と西島さん。命の可能性や、命のあり方を知り、果たして自分はどう生きていくのか。当事者として答えを探し、考え続けるきっかけを与えてくれる体験でした。
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